6.22.2010

最先端物理学を読む。

最近文書に直していないだけで、きちんと本は読み続けてます。
若干ペースダウンはしているけれども、3冊/月ぐらいで今後も読み続けられればなと思います。

で、今回は最近読んだ2冊の紹介と感想文です。
いずれも一般書として発売されてこそ居るものの、専門的な内容で、2冊読みきるのに1ヶ月かかってしまいました。

一冊目はこちら。


2008年のノーベル物理学賞受賞学者、小林誠氏による著書です。
タイトルは消えた反物質というわかり易いもので、まえがきにも一般書として読めるように書いたと書かれていますが、いきなりファインマングラムが出てきたり、量子力学をかじった程度の知識を想定して書かれているだろう内容が端々に見られたり、多少なりとも物理学の素養がなければ、読み勧めることすら難しいだろうと言える書籍でした。

文章の書き方も難しめで、教科書に近い、カッチリした文章だと感じました。
反面、多少この分野の事を知っていたり、図の見方を理解していれば非常に楽しめる内容で、氏がノーベル賞を取る理由となった理論への言及や、現在も実験が続けられているBファクトリーの話など、なぜ宇宙は物質でできているのか?という素朴な疑問からスタートし、素粒子の標準模型や、その研究に使われる実験設備にまで話が及びます。

ノーベル賞受賞理由の理論について深い記述はないものの、どういう土台の上に理論が作られたのかを知るに当たっては、十分な内容だと思います。
加えて、本当に難しいところは断りを入れて深く踏み込まない様にしてくれていたり、厳密には異なる事でも、断りを入れた上で、簡単な(それでも理解するのに数度読み直した箇所がありましたが)説明になっているのは、いい作りだと思いました。

素粒子物理学やら量子力学やら、そのあたりの知識が多少あって、興味があるなと思う方はぜひ。

続いて二冊目。
同じくノーベル物理学賞を受賞された、南部陽一郎氏による著書、クォークの第二版です。
初版から大幅な改訂が行われており、近年の研究事情や、初版から第二版の過程で新たに分かってきた事実などを盛り込んだものになっています。

文章は非常にわかりやすく、一般に難しいという印象の強い素粒子の世界の話を、かなり噛み砕いて、場合によっては厳密さを無視し、日常よく触れるものに例えて解説がなされています。

後半、ゲージ場の理論が出てくるあたりになると徐々に難しさが増して来ますが「ギブアップ!」と叫びたくなるほどにはならないのでご安心ください。

章立てされてクォークという不思議な素粒子(と考えられているもの)について解説するというのが主題ですが、後半はクォークを超えた、素粒子物理論全体、あるいは物理学者の夢である統一理論などについても詳しく語られます。

最近の素粒子に関するニュース(ニュートリノの質量の話題など)をざっくり見てから読み始めると、第二版からさらに進んだ最新の研究事情との対比を行うことができ、非常に面白い体験ができると思います。

先の消えた反物質に比べればかなり読みやすく、一章一章の流さも短めで、ちょっとした時間に着々と読み進めるのには向いている書籍だと思いました。

文章も柔らかく、親戚のおじさんが語ってくれているような、温かみのあるものでした。
難解な図の類は無いものの、途中途中で読者に語りかけ、「この問題を考えてみてご覧なさい」とする様は、書籍の中に参加し、議論している感じがして大変良かったです。

量子力学の知識があればすんなりと読み進めることができ、素粒子物理学のさわりを理解するために読みたいという方にもおすすめできると思います。

いずれも良書なので、ノーベル賞を取るほどの頭脳がどういう風に素粒子の世界を理解しているのかを知りたい方は、手に取ってみてはいかがでしょうか。

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